ショート

□透明なカメラで切り取る明日
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カレンダー(学生仕様)上では夏休み前というそんな頃合、未来とすら称せないほどリアルな近さに受験を控えた私たち三年生は、最近クラス内が少しピリピリしてる。怖いねぇ。


そんな中わざわざHRの時間を使って進路調査という名の志望校確認。


何となくこういうのは、書く気が失せてしまう。

現実逃避とばかりに、指でくるくるシャーペンを回しながら窓を眺めてみた。
求めていたぴかぴか太陽さんは本日休業、今日も土砂降り。…テンション下がる。



ずっと降り続く雨を見てるのも飽きたので、私と窓の間に居る汀目に話しかけてみることにした。


窓際の一番後ろとか、羨まし過ぎる席を獲得しておきながら半分位しか登校してこない汀目くんである。

本日は珍しい「登校」日のようで、つまらなさそうに頬杖つきながら数学のプリントを埋めていく。休みすぎて補修食らった汀目くんなのである。



『汀目ぇ』

「あ?んだよ何か用かよ俺忙しいんだあとにしてくれ」

『乙女の悩みを聞いておくれー』

「お前が乙女なら俺だって乙女だよ」

『…え?どっから出てきたの、その気持ち悪い方程式』

「あ、いや…、わりぃ。
 俺も思わずノリで言っちまったが、正直めちゃくちゃ後悔したわ。」

『んー、顔だけは合格だと思うんだけどね?』

「下手なフォローすんな、逆に傷つくから。

 まあ、結局のところお前は乙女ではない、と…」

『セリフ被ってごめんね、どっから出てきたのその方程式』

「事実を認められないのは見苦しいぜ。」

『お前の頭も見苦しいよ。』


雨ばかり降ってる上に、夏の暑さが顔を覗かせ始めたこの時分、汀目のザンギリ頭は正直暑苦しい。整った可愛らしい顔に似合ってはいるけど。



『汀目さあ、』

「んあ?」

『進路調査のプリント、なんて書いた?』

「…ああ、今そんな時間だったっけ。」

『私三行位で終わりそうなんだけど。』

「どれどれ?」



“高校受験→適当にギリギリまで頑張ってみて、適当に受かった高校にはいる。

大学受験→〃

就職→適当に内申とって適当な会社に入って適当に暮らす”



確かこんなことを書いたはずだ。

文中と同じく、適当という文字がふんだんに散りばめられた意思がまるまる投影された将来設計(自覚あり)。


ひょこっと首を伸ばしてそれを覗き込む汀目が、段々と顔をしかめていく。




「…いや、お前社会をなめてるだろ」

『出席日数計算して学校通ってる汀目に言われたくない。』

「ここまで酷くねえし。」

『補修くらってるくせして。』

「ちげぇよ、これは兄貴が…!」

『え、お兄さんがどうしたの?』

「あ…、いや、別に…まあ色々。」

『ふうん。』



そこでちらりと時間を確認。げ…、そろそろ担任戻ってくる。


『でさあ、汀目はなんて書いたの?』

「んー…。

 とりあえず志望校書いといた。」

『だけ?』

「だけ。

 けどお前のよりかはマシだろ」

『えー、』

「こういうのはそれらしいこと書いときゃいいだろ」



なるほど。


要領の良さでは信頼できる汀目のお言葉をありがたく実践することにしよう。


書き書き。
ついでに汀目とのお喋り続行。




『汀目ぇ』

「んだよ」

『将来のこと考えるのって、めんどくさいねー』

「そりゃお前の頭ん中がすっからかんだからだろ。」


ご名答すぎて辛辣な返事が返ってきた。







透明なカメラで切り取る明日

(空を飛びたい、雲の上に立ってみたい)

(こういうのじゃ駄目なのかね?)

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